特集●兼業・副業
目 次 Ⅰ はじめに Ⅱ 複業の時系列変化 Ⅲ 近年の「複業」の実態 Ⅳ 企業はなぜ複業を認めるのか Ⅴ まとめ
Ⅰ は じ め に
複業という働き方に関心が集まっている。本業 だけでなく,ほかの仕事にも従事している状態に ついては,従来の「副業」と変わらないが,あえ
て「複業」と表記する背景には,複数の業務のど ちらが主で,どちらが副と言えない,という違い があるからである。従来の副業は,農林漁業者の 兼業や,アルバイトの掛け持ちといった,所得を 補塡するための副次的な働き方を指してきた。そ れが,昨今,自己実現や成長機会の獲得,変化の 激しい時代において一つの企業に身を委ねるリス クの回避といった,多様な目的を持つ複業として 注目されている。複業以外にも,マルチプルジョ ブホルダー,パラレルキャリア,2 枚目の名刺, サラリーマン副業,週末起業など,様々にネイミ ングされるこの新しい働き方は,これからの労働
「複業」の実態と
企業が認めるようになった背景
近年,複数の仕事に従事する「複業」に関心が集まっている。本稿では,複数の仕事に従 事する働き方を,副業も含んだ広い概念として「複業」と定義し,その実態と変化を把握 することを試みた。まず,『就業構造基本調査』(総務省統計局)で時系列変化を見たとこ ろ,就業者のうち複業を持つ者の割合は 1977 年に 6.9%に達した後は,直近の 2012 年ま で減少傾向にあること,直近 15 年間で減少幅が大きい背景として,本業もしくは複業に おいて,農林水産業に従事する者の数が大きく減少しただけでなく,それ以外に従事する 者の数もやや減少傾向にあることがわかった。一方で「本業,複業ともに雇用者」の数が 量的にも増加傾向にあるという,興味深い結果が明らかになった。次に「全国就業実態パ ネル調査 2016」(リクルートワークス研究所)を用いて近年の複業実態を検証した結果, 複業の労働時間や収入が本業を超える,もしくは,本業と同程度である複業が一定数存在 することがわかった。また,本業の労働時間が短いほど,勤務時間や働く場所に選択自由 度があるほど,そして,本業の年収が低いほど複業をしていることが確認できた一方で, 雇用者に限定すると,年収が高くても複業をしている人がある程度いることがわかった。 さらに,本業と複業の年収に正の相関がみられたことから,本業で所得が高い人ほどその 専門性を生かした複業で,高い収入を得ている可能性を示唆した。最後に,複業を容認, もしくは推奨する企業事例に注目し,企業側のメリットを「人材育成」「人材求心力」「柔 軟な組織体制」「生産性向上」「ビジネスの情報と人脈」の 5 つに整理した。
萩原 牧子
(リクルートワークス研究所主任研究員)市場の中で大きな存在になる可能性があることが 指摘されてきた(大木 1997)。
一方で,副業の量的拡大を促すような制度的要 因も生じている。2016 年 10 月より短時間労働者 への社会保険の適用範囲が拡大される。これによ り企業が社会保険の適用を回避するために,短時 間労働者の週労働時間を 20 時間未満に引き下げ れば,所得補塡のために複数の企業で就労する必 要に迫られる労働者の数が増えるかもしれない。 このように,質と量の変化が注目される副業・ 複業ではあるが,長期的な推移を把握できる統計 は 5 年おきに実施される1)『就業構造基本調査』(総
務省統計局)のみであり,その実態が明らかに
なっているとは言い難い。
『就業構造基本調査』を活用し,なかでもサラ リーマンの副業に注目して長期的な推移を分析し たものに高石(2004)や小倉・藤本(2006)があ る。小倉・藤本(2006)は,1968 年から 2002 年 の動向では,数としては 1992 年の 253 万 8000 人, 雇用者総数に占める割合では,1977 年,1979 年 の 5.9%をピークに,その後はともに低下傾向に あること,1997 年以降で見ると,副業が農林業 である雇用者数が減り,一方で,非農林業が主流 になっているという変化を示している。
副業・複業の目的が多様化していることを示唆 する調査結果もある。労働政策研究・研修機構
(2009)が,個人に対して 2007 年に実施したアン
ケート調査によると,仕事を複数持つ理由(複数 回答)は,「収入を増やしたいから」(52.7%)が もっとも回答割合が高い一方で,「自分が活躍で きる場を広げたいから」(26.8%),「1 つの仕事だ けでは生活自体が営めないから」(26.5%),「様々 な分野の人とつながりができるから」(21.2%)が 続いている。
以上の結果からは,従来の農林業の兼業を中心 とした副業が減少していく一方で,所得補塡に留 まらない,多様な目的を持つ複業が増えていく兆 しがみられる。上記の長期動向の検証からすでに 10 年が経過した現在,副業・複業は増えているの であろうか。その質は変化しているのであろうか。 本稿では,1 つだけではなく,複数の仕事に従 事する働き方を,従来の副業も含んだ広い概念と
して「複業」と定義し,その実態と変化を把握す ることを目的とする。具体的には,『就業構造基
本調査』(総務省統計局)を活用して複業の時系列
変化を見るとともに,リクルートワークス研究所 が実施した「全国就業実態パネル調査」(2016)を 活用して,誰が複業をしているのか,近年の複業 の実態を把握したい。さらに,定量データだけで は捉えきれない,小さな変化の兆しに注目するた めに,複業を容認する企業の事例を観察し,従業 員に複業を認める企業側のメリットを整理したい。
Ⅱ 複業の時系列変化
まず,総務省統計局『就業構造基本調査』をも とに,複業の時系列変化について見ていきたい。 『就業構造基本調査』においては主な仕事以外に
別の仕事をしているか,その就業形態,産業につ いて調査をしている。
図 1 は 1962 年から 2012 年までの,就業者のう ち複業を持つ者の推移である2)。1977 年におい
て 371 万人に達した後は 2012 年まで減少傾向が 続いている。特に 1997 年の 330 万人から 2012 年 の 234 万人と 15 年で 100 万弱も減少している。 また就業者に占める複業を持つ者の比率も低下傾 向であり,1977 年において 6.9%に達した後は, 2012 年には 3.6%となっている。
複業が減少した背景として,農林水産業の従事 者の減少や兼業農家の減少が大きい一方で,それ 以外の複業は増えているかもしれない。この点を 表 1,表 2 において確認したい。
で見ると,1997 年 196.3 万人であったのが 2012 年 178.8 万人である。仮説と異なり,「本業・複 業ともに農林水産業以外」である者も,量的には 増えているとは言えない。
表 2 は本業と複業の雇用形態の動向を見たもの
である。農林業の従事者は主に自営業を中心とし, 雇用者以外である可能性があるため,雇われてい るか否かに注目した。1997 年以降においては「本 業・複業ともに雇用者」が増加傾向であり,1997 年 89.2 万人であったのが,2012 年に 105.0 万人 図 1 複業を持つ者の推移(男女計)
出所:総務省統計局『就業構造基本調査』
289 312 279
306
347 371 365 363 339 346 330
256 262 234 6.7% 7.0%
5.7% 6.0%6.7%
6.9% 6.7% 6.3%
5.6% 5.3%
4.9%
3.9% 4.0% 3.6%
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0%
0 50 100 150 200 250 300 350 400
1962 1965 1968 1971 1974 1977 1979 1982 1987 1992 1997 2002 2007 2012 複業を有する者(人数,左軸) 就業者に占める複業を有する者の割合(%,右軸) (万人)
表 1 本業と複業の産業(農林水産業かそれ以外か)
(単位:万人,%)
本業・複業ともに 農林水産業
本業が農林水産業, 複業が農林水産業以外
本業が農林水産業以外, 複業が農林水産業
本業・複業ともに 農林水産業以外 1997 年
2002 年
2007 年
2012 年
11.1 (3.4)
7.2 (2.8)
6.4 (2.4)
4.9 (2.1)
20.6 (6.2)
11.9 (4.7)
9.7 (3.7)
9.6 (4.1)
102.2 (31.0)
67.5 (26.4)
60.6 (23.1)
41.1 (17.5)
196.3 (59.4)
168.8 (66.1)
185.1 (70.7)
178.8 (76.3)
注:( )内の値は各年の合計に対する構成比を示す。 出所:総務省統計局『就業構造基本調査』
表 2 本業と複業の雇用形態 (単位:万人,%)
本業・複業ともに 雇用者
本業が雇用者 複業が雇用者以外
本業が雇用者以外 複業が雇用者
本業・複業ともに 雇用者以外 1997 年
2002 年
2007 年
2012 年
89.2 (27.1)
81.5 (31.9)
102.9 (39.7)
105.0 (46.9)
155.6 (47.3)
116.4 (45.6)
105.2 (40.6)
76.4 (34.1)
36.1 (11.0)
23.9 (9.4)
23.6 (9.1)
23.0 (10.3)
47.9 (14.6)
33.4 (13.1)
27.2 (10.5)
19.5 (8.7)
まで増えている。その一方で,「本業が雇用者, 複業が雇用者以外」は 1997 年においては 155.6 万人と「本業・複業ともに雇用者」よりも人数が 多 か っ た が,1997 年 以 降 は 減 少 傾 向 が 続 き, 2012 年には 76.4 万人と半減している。また「本 業・複業ともに雇用者以外」についても,1997 年 47.9 万人から 2012 年 19.5 万人と減少している。 以上により,1997 年以降 2012 年までで複業を している者が減少する背景を検証した結果,本業 もしくは複業で農林水産業に従事する者の数が大 きく減少しているのと合わせて,農林水産業従事 者以外に従事する者も,複業者に占める構成比は 増えていても,数としてはやや減少傾向にあるこ とがわかった。一方で,雇用形態では「本業・複 業ともに雇用者」が量的に増加傾向にあるとい う,興味深い結果が明らかになった。
これが,アルバイトを掛け持ちするような,従 来の収入の補塡型の複業の増加によるものなの か,多様な目的を持つ新しい複業という働き方が 増えてきたことによるのかを検証するには,さら に,複業の労働時間や収入などの情報が必要であ る。しかし,『就業構造基本調査』では複業の内 容については,雇用形態と産業しか調査していな
い。また,本稿執筆時点では,2012 年が最新のデー タになり,それ以降の直近の動向はわからない。 これらの点については次節で別のデータを活用し て見ていくことにする。
最後に,『就業構造基本調査』(2012)において, 本業の産業別に複業を持つ者の比率について見て
おきたい(図 2)。高い順に見ると,教育,学習支
援業 6.8%,不動産業,物品賃貸業 6.5%,学術研 究,専門・技術サービス業 6.3%が続く。先ほど の「本業・複業ともに雇用者」が増えている結果 と合わせると,これらの専門職において,一つだ けでなく,複数の企業組織と雇用契約を結んで働 いている可能性もある。ここからは,所得補塡と は異なる,本人の専門性を活かすためといった, 新しい複業の側面もうかがえる。
Ⅲ 近年の「複業」の実態
次に,近年の複業の実態について考察したい。 以下の実証分析に用いるデータは,リクルート ワークス研究所が 2016 年 1 月に実施した「全国 就業実態パネル調査」である。対象は全国の 15 歳以上男女であり,事前に登録されたモニターに
5.9
3.2
2.2 2.8 2.8 3.4 2.2 6.5 6.3 4.6 4.6 6.8 3.7 5.6 3.5 2.4 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0%
農
林
水
産
業
建
設
業
製
造
業
情
報
通
信
業
運
輸
業
、
郵
便
業
卸
売
業
、
小
売
業
金
融
業
、
保
険
業
不
動
産
業
、
物
品
賃
貸
業
学
術
研
究
、
専
門
・
技
術
サ
ー
ビ
ス
業
宿
泊
業
、
飲
食
サ
ー
ビ
ス
業
生
活
関
連
サ
ー
ビ
ス
業
、
娯
楽
業
教
育
、
学
習
支
援
業
医
療
、
福
祉
複
合
サ
ー
ビ
ス
事
業
サ
ー
ビ
ス
業
︵
他
に
分
類
さ
れ
な
い
も
の
︶
公
務
︵
他
に
分
類
さ
れ
る
も
の
を
除
く
︶
図 2 本業の産業別複業を持つ者の比率(就業者)
対するインターネット調査として行われた。 パネル調査の第 1 回目となった 2016 年 1 月調 査では,4 万 1000 人のサンプルサイズ目標数に 対し,14 万 5102 人の登録者に調査依頼がなされ, データクリーニングの結果,4 万 9131 人から有 効回答が得られた。現在,日本ではいくつかの大 学や官公庁,研究所において,すぐれたパネル調 査が蓄積されているが,本調査は従来のパネル調 査よりも大規模の標本を確保しようとする点に一 つの特徴がある。本調査では 2015 年 12 月時点の 就業状況,複業などについて調査をしている。
1 複業に関する動向
「全国就業実態パネル調査」においては,複業 については,複業の有無,2015 年 12 月において 複業にかけた時間(週当たり平均),2015 年の 1 年間における複業からの収入について調査をして いる3)。複業目的については調査していないため,
従来の所得補塡型ではない複業の存在を,本業と 複業の労働時間と収入の関係から検証することに する4)。
図 3 は週当たりに複業にかけた時間の分布であ る。複業をした者に限り平均をとると 15.4 時間 であり,週当たり 10 時間以下に当たる者が半数 に達する。ただし 30 時間を超すような長い労働 時間である者も 15.9%いることにも注目したい。 本業との位置づけを見るために,図 4 のように本 業の労働時間に対する複業にかけた時間について 集計した。複業をした者の平均では,本業 100% に対して複業にかけた時間は 66.7%とかなり高 い。特に 100%を超える(複業にかけた時間が本業
の労働時間を超える)者が 8.7%もいることは興味
深い結果である。もちろん複業にかけた時間が本 業の 4 分の 1 以下にあたる人が 4 割と,労働時間 の観点から見て「複業=副次的な仕事」と言える 人たちも多く存在するが,本業と比較して労働時 間が匹敵する,あるいは長い人も存在することか らは,どちらの業務が本業か副業かとは言い切れ ないという「複業」状態である人たちもいること がわかる。なお,2 つではなく,さらに多くの業 務に従事している複業者の場合は,本業以外の仕 事について聞かれた場合に,複業業務の合計時間
を回答しているために,本業の労働時間よりも上 回ることも可能性としてありうる。
図 5 は 2015 年 1 年間における複業からの収入 の分布を示している。複業をした者に限り平均を とると 61.1 万円であるが,20 万円未満が 42.9% にのぼることから,金額的にみて本業に対して補 助的な収入を得るために複業をしている人が多い ことが確認できる。一方で,なかには 200 万円を 超える者が 7.9%と,複業において多くの収入を 得ている者がいることがわかる。労働時間と同様 に本業の収入との関係をみていきたい。図 6 は本 業の年収に対する複業からの収入の比率である。 複業をしている者に限った平均では 49.3%となっ ているが,10%未満である者が 41.6%に達してお り,こちらでも,本業に対する補助的な収入を得 るために,複業をしている者が多いことが確認さ れる。その一方で,100%を超える者が 5.8%いる ことから,複業をしている者の一部は本業以上の 収入を得ていると言える。また,本業の収入には
図 4 本業の労働時間に対する複業の労働時間比率 (2015 年 12 月,週当たり)
17.9 24.4
19.6
6.9 22.6
8.7
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0%
10%未満 10-25% 25-50% 50-75% 75-100% 100%超
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
32.6%
24.1% 9.9%
10.9% 6.7%
9.8%
6.1% 5 時間以下
6-10 時間以下
11-15 時間以下
16-20 時間以下
20-30 時間以下
31-40 時間以下
41 時間以上
図 3 週当たり複業時間(2015 年 12 月)
注:労働時間は整数で聞いている。
及ばないものの,ほぼ本業に近い収入(75 ~
100%)を得ている労働者が 8.9%もいることが確
認できる。
ここでは,本業と複業の労働時間と収入の関係 を見ることで,従来の本業に対する補助的な複業 をする者が多く存在する一方で,複業の労働時間 や収入が本業を超える,もしくは,本業と同程度 で,どちらが主でどちらが副とは言い切れない労 働者も少なからず存在することが確認できた。次 に,回帰分析を行うことで複業に関する最近の特 徴について考察していきたい。
2 複業に関する回帰分析
「全国就業実態パネル調査」を用いて,複業を する者の特徴や,複業の労働時間や年収に影響を 与える要因を探索的に見ていきたい。回帰分析を 行う際に,説明変数として年齢,配偶者,子供の 状況,学歴,就業形態,本業の労働時間,勤務時 間や働く場所の選択自由度の有無5),本業の年収
を検討する。ただし労働時間と年収は関連するた め,片方のみを入れるというモデルを想定する。
(1)誰が複業をしているのか
表 3 は,複業をしている者を 1,それ以外を 0 としたダミー変数を被説明変数としたプロビット 分析の推定結果である。このプロビット分析につ いては,本業が雇用者である者に限定した推定結 果も掲載している。
主な結果について見てみると,男性については ベースである 20 代に比べ,30 代以降は係数が負 で有意であるため,年齢が高くなるにつれて複業 をしない傾向がみられる。しかし女性については そうした年齢差の傾向が見られない。一方,女性 については配偶者がいると複業をしない傾向がみ られる。配偶者がいると配偶者の収入が十分であ ること,家事などのために複業まで行う時間がな いことが背景にあるだろう。
また雇用形態については,男女ともにベースで ある正社員に対して,パート・アルバイト,派遣 社員,契約社員の係数が正で有意であるため,非 正社員の方が複業を行っている確率が高い。また, 自営業や役員なども係数が正で有意であるため同 様な解釈ができる。本業の労働時間については ベースである週当たり 35 ~ 45 時間に対し,35 時間未満については係数が正で有意であるため, 労働時間が短い人ほど複業を行っていることがう かがえる。さらに,20 ~ 35 時間未満より 20 時 間未満のほうが副業を行っている確率が高いこと から,2016 年 10 月から短時間労働者への社会保 険の適用範囲が拡大される企業が,社会保険の適 用を回避するために,短時間労働者の週労働時間 を 20 時間未満に引き下げれば,複業を行う者が 増える可能性がある。また,勤務時間や働く場所 に選択自由度がある場合はそうでない場合に比べ て,複業をしている確率が高まっており,裁量度 のある働き方をしているほど複業しやすいことが わかる。
最後に本業の年収についての効果を見ておく と,ベースである 200 万~ 400 万円に対して, 200 万円未満については係数が正で有意であるた め,本業の収入が低い人ほど複業をしていること
42.9%
21.2% 16.3%
11.8%
7.9% 20 万円未満 20 万-50 万円未満
50 万-100 万円未満
100万-200 万円未満
200 万円以上
図 5 複業からの年収(2015 年)
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
図 6 本業の年収に対する複業の年収比率(2015 年)
41.6
22.0
15.9
5.9 8.9 5.8
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0%
10%未満 10-25% 25-50% 50-75% 75-100% 100%超
表 3 2015 年に複業をしたか否かのプロビット分析(限界効果)
就業者 雇用者に限定
男性 男性 女性 女性 男性 男性 女性 女性 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) 本人の年齢(ベース:20 代)
30 代
40 代
50 代
60 代
70 代以上
配偶者あり
末子年齢 6 歳以下
大卒・大学院卒
-0.022*** (0.008) -0.029*** (0.008) -0.036*** (0.008) -0.024*** (0.009) -0.003 (0.013) 0.007 (0.006) 0.006 (0.009) 0.021*** (0.005) -0.017** (0.008) -0.019** (0.008) -0.025*** (0.008) -0.017* (0.009) 0.016 (0.014) 0.016*** (0.006) 0.008 (0.009) 0.024*** (0.005) 0.008 (0.009) -0.000 (0.009) 0.002 (0.010) 0.006 (0.013) 0.033 (0.030) -0.046*** (0.007) -0.004 (0.011) 0.008 (0.007) 0.012 (0.010) 0.005 (0.010) 0.007 (0.010) 0.013 (0.013) 0.054* (0.032) -0.041*** (0.007) 0.002 (0.011) 0.014* (0.007) -0.015* (0.008) -0.020*** (0.008) -0.028*** (0.008) -0.019** (0.009) 0.013 (0.017) -0.000 (0.006) 0.007 (0.008) 0.018*** (0.005) -0.012 (0.008) -0.013 (0.008) -0.020** (0.008) -0.018* (0.009) 0.022 (0.017) 0.009 (0.006) 0.008 (0.008) 0.021*** (0.005) 0.010 (0.009) 0.002 (0.009) 0.000 (0.010) -0.005 (0.013) 0.057 (0.039) -0.045*** (0.007) -0.009 (0.011) 0.008 (0.007) 0.013 (0.010) 0.007 (0.010) 0.004 (0.010) 0.001 (0.014) 0.073* (0.041) -0.040*** (0.007) -0.005 (0.011) 0.012 (0.007) 本業の就業形態(ベース:正社員)
パート・アルバイト
派遣社員
契約社員
その他の雇用者
自営業
役員
内職
0.044*** (0.012) 0.051** (0.021) 0.043*** (0.011) 0.074* (0.041) 0.071*** (0.011) 0.094*** (0.016) -0.009 (0.025) 0.032*** (0.012) 0.029 (0.019) 0.021** (0.010) 0.057 (0.038) 0.082*** (0.011) 0.106*** (0.016) -0.005 (0.025) 0.044*** (0.010) 0.086*** (0.019) 0.038*** (0.013) 0.126** (0.053) 0.072*** (0.017) 0.097*** (0.027) -0.001 (0.020) 0.053*** (0.011) 0.078*** (0.018) 0.029** (0.013) 0.135** (0.054) 0.103*** (0.018) 0.120*** (0.028) 0.016 (0.022) 0.043*** (0.012) 0.044** (0.019) 0.040*** (0.011) 0.069* (0.039) 0.042*** (0.012) 0.030* (0.018) 0.026** (0.010) 0.060 (0.037) 0.043*** (0.010) 0.082*** (0.018) 0.037*** (0.013) 0.119** (0.052) 0.049*** (0.010) 0.073*** (0.018) 0.028** (0.013) 0.124** (0.053)
本業の週当たり労働時間(ベース:35-45 時間未満) 20 時間未満
20-35 時間未満
45-60 時間未満
60 時間以上
勤務時間選択自由度あり
働く場所選択自由度あり
0.061*** (0.012) 0.030*** (0.010) 0.009 (0.006) -0.007 (0.008) 0.018** (0.007) 0.044*** (0.010) 0.071*** (0.012) 0.024** (0.010) 0.010 (0.010) -0.010 (0.018) 0.032*** (0.008) 0.017* (0.010) 0.038*** (0.013) 0.021* (0.011) 0.006 (0.006) -0.003 (0.009) 0.021** (0.008) 0.053*** (0.012) 0.067*** (0.013) 0.026** (0.010) 0.009 (0.010) -0.000 (0.020) 0.032*** (0.009) 0.022* (0.011) 本業の年収(ベース:200 万-400 万円未満)
200 万円未満
400 万-600 万円未満
600 万-800 万円未満
800 万-1000 万円未満
1000 万円以上
サンプルサイズ
疑似決定係数 0.06918,345
0.026*** (0.008) -0.039*** (0.006) -0.055*** (0.006) -0.056*** (0.007) -0.022** (0.011) 18,345
0.070 0.04313,660
0.021*** (0.008) -0.036*** (0.010) -0.048*** (0.016) -0.069*** (0.024) -0.023 (0.038) 13,660
0.037 0.05015,402
0.009 (0.008) -0.030*** (0.006) -0.050*** (0.006) -0.057*** (0.007) -0.014 (0.013) 15,402
0.051 0.03612,129
0.026*** (0.008) -0.033*** (0.010) -0.044*** (0.017) -0.061** (0.027) 0.026 (0.059) 12,129 0.031
注:( )内の値は分散不均一性に頑健な標準誤差。
がわかる。背景として本業の収入が低いので所得 補助として複業をしている可能性がある。また 400 万円以上の係数については負で有意であるた め,本業の年収が高くなるにつれて複業をしてい ない傾向がある。ただし,雇用者に限定すると, ベースと比較して年収 1000 万円以上については 係数が有意でないことから,雇用者については, 年収が高い人についてもある程度複業をしている 人がいる様子がうかがえる。
(2)複業の労働時間,年収
次に複業をしている人に限定して,複業の労働 時間や年収がどのように決定されるかを見ていこ う。
表 4 は複業の労働時間を被説明変数とした推定 結果であるが,あまり有意な変数が見られない。 本業の労働時間がベースである 35 ~ 45 時間未満 に対して 20 時間未満では係数が負で有意である ため,本業の労働時間が短い人ほど複業の労働時 間も短くなることがわかる。また男性については 年齢が高くなるほど複業の労働時間が長くなる が,女性は年齢差が見られない。
表 5 は複業の年収を被説明変数とした推定結果 である。結果を見ると,男女ともに年齢が高くな ると複業の年収が高くなる傾向がうかがえる。20 代をベースにしたときに 30 代以上の係数が正で 有意となっている。また男性の一部推定結果では 配偶者ありの係数が正で有意,女性においては配 偶者ありの係数が負で有意である。特に女性につ いては,配偶者がいると配偶者の収入も合わせて 生計を立てることが可能になるため複業の所得も 低いと想定される。
また,興味深いのは本業の年収との関係である。 男女ともにベースである本業の年収 200 万~ 400 万円未満に対して,200 万円未満において係数が 負で有意となっている。本業の年収が少ない人に ついては複業の年収も少ないことがいえる。また 男性については,本業の年収が 600 万円を超えた ところにおいては係数が正で有意となっており, 本業の収入が高い人ほど複業の収入も高いことが わかる。従来の複業は,本業からの収入が少ない ために補助的に仕事を行うことが主であったが,
複業をしている人に限り所得の影響を見ると,本 業と複業に正の相関がみられる。可能性として, 本業で所得が高い人ほどその専門性を生かし複業 においても高い収入を獲得していることが考えら れる。
以上では,近年の複業実態について,従来の所 得補塡型の複業だけでなく,多様な目的を持つ複 業の存在が確認できるのかを,本業と複業の労働 時間や収入の関係性,複業をする要因を本業の就 業実態を分析することで検討してきた。その結果, 近年の複業にも,従来の所得補塡型と解釈できる 複業が多くの割合を占めていることが確認できた 一方で,本業と複業の労働時間と所得の関係が, どちらが主でどちらが副なのか,言えない状態で ある者が一定数いること,また,男性については, 本業の収入が高い人ほど複業の収入も高い実態も 明らかになり,従来の所得補塡型とは言えない新 しい複業の存在が示された。
Ⅳ 企業はなぜ複業を認めるのか
労働契約の下では,就労時間外の時間をどのよ うに利用するのかは労働者の自由である。しかし, 本業に専念してもらいたいという理由から,ほと んどの日本企業は,就業規則条項によって複業を 禁止,もしくは許可制にすることで制限してきた
( 根 本 2006)。 さ ら に,「 禁 止 」 を す る 傾 向 は,
1995 年から 2004 年で増加傾向にあるという調査 結果もある(労働政策研究・研修機構 2005)6)。と
ころが,その一方で,近年,複業を容認し,なか には推奨するという逆の動きをする企業が現れて 注目を集めている。
表 4 2015 年 12 月の複業の労働時間対数値に関する分析(OLS)
VARIABLES 男性 男性 女性 女性 (1) (2) (3) (4) 本人の年齢(ベース:20 代)
30 代
40 代
50 代
60 代
70 代以上
配偶者あり
末子年齢 6 歳以下
大卒・大学院卒
0.168 (0.103) 0.222** (0.107) 0.434*** (0.121) 0.345** (0.137) 0.247 (0.161) -0.016 (0.078) -0.151 (0.111) -0.056 (0.061) 0.148 (0.104) 0.193* (0.109) 0.393*** (0.122) 0.305** (0.137) 0.134 (0.156) -0.042 (0.079) -0.147 (0.111) -0.062 (0.061) -0.062 (0.090) 0.081 (0.087) 0.068 (0.093) 0.020 (0.119) 0.151 (0.250) -0.043 (0.064) -0.094 (0.117) -0.207*** (0.065) -0.058 (0.091) 0.072 (0.088) 0.045 (0.093) -0.028 (0.118) 0.034 (0.246) -0.071 (0.063) -0.135 (0.117) -0.224*** (0.066) 本業の就業形態(ベース:正社員)
パート・アルバイト
派遣社員
契約社員
その他の雇用者
自営業
役員
内職
0.103 (0.107) 0.206 (0.179) -0.068 (0.114) -0.509* (0.286) 0.060 (0.101) -0.097 (0.132) -0.110 (0.266) 0.134 (0.113) 0.225 (0.179) -0.016 (0.114) -0.505* (0.297) 0.112 (0.095) -0.107 (0.130) -0.257 (0.266) -0.021 (0.094) -0.075 (0.119) -0.156 (0.128) -0.201 (0.279) -0.060 (0.120) 0.350** (0.173) -0.215 (0.165) -0.076 (0.093) -0.096 (0.116) -0.160 (0.127) -0.283 (0.287) -0.090 (0.116) 0.335* (0.178) -0.297* (0.170) 本業の週当たり労働時間(ベース:35-45 時間未満)
20 時間未満
20-35 時間未満
45-60 時間未満
60 時間以上
勤務時間選択自由度あり
働く場所選択自由度あり
-0.358*** (0.110) 0.032 (0.093) -0.095 (0.077) 0.119 (0.110) -0.056 (0.076) 0.148* (0.084) -0.328*** (0.088) -0.035 (0.085) -0.037 (0.097) 0.127 (0.238) 0.013 (0.067) 0.110 (0.080) 本業の年収(ベース:200 万-400 万円未満)
200 万円未満
400 万-600 万円未満
600 万-800 万円未満
800 万-1000 万円未満
1000 万円以上
定数項
サンプルサイズ 自由度修正済決定係数
2.174*** (0.247) 1,660 0.070 -0.055 (0.079) 0.099 (0.084) 0.050 (0.123) 0.171 (0.179) 0.427** (0.178) 2.181*** (0.244) 1,660 0.063 2.449*** (0.185) 1,578 0.084 -0.006 (0.074) 0.066 (0.144) 0.528** (0.260) -0.177 (0.374) -0.077 (0.587) 2.441*** (0.181) 1,578 0.072
注:( )内の値は分散不均一性に頑健な標準誤差。 ***p<0.01,**p<0.05,*p<0.1
表 5 2015 年複業からの年収に関する分析(OLS)
VARIABLES 男性 男性 女性 女性 (1) (2) (3) (4) 本人の年齢(ベース:20 代)
30 代
40 代
50 代
60 代
70 代以上
配偶者あり
末子年齢 6 歳以下
大卒・大学院卒
0.264** (0.120) 0.512*** (0.121) 0.783*** (0.130) 1.006*** (0.143) 0.999*** (0.164) 0.177** (0.084) 0.045 (0.125) -0.080 (0.067) 0.215* (0.119) 0.436*** (0.120) 0.661*** (0.130) 0.985*** (0.141) 0.952*** (0.155) 0.103 (0.084) 0.052 (0.122) -0.101 (0.067) 0.213** (0.107) 0.441*** (0.105) 0.621*** (0.109) 0.516*** (0.137) 0.835*** (0.215) -0.252*** (0.074) -0.200 (0.126) 0.022 (0.078) 0.148 (0.105) 0.388*** (0.105) 0.581*** (0.109) 0.468*** (0.137) 0.764*** (0.211) -0.239*** (0.073) -0.188 (0.126) -0.015 (0.077) 本業の就業形態(ベース:正社員)
パート・アルバイト
派遣社員
契約社員
その他の雇用者
自営業
役員
内職
-0.178 (0.117) 0.042 (0.200) 0.009 (0.113) -0.161 (0.344) 0.005 (0.105) 0.493*** (0.147) -0.747*** (0.267) 0.123 (0.118) 0.181 (0.203) 0.180 (0.117) 0.103 (0.323) 0.282*** (0.098) 0.569*** (0.145) -0.726*** (0.262) -0.031 (0.112) -0.005 (0.154) -0.072 (0.137) 0.466 (0.330) 0.072 (0.146) 0.412* (0.222) -0.653*** (0.184) 0.125 (0.106) 0.067 (0.154) 0.006 (0.138) 0.628* (0.324) 0.198 (0.139) 0.445** (0.212) -0.671*** (0.180) 本業の週当たり労働時間(ベース:35-45 時間未満)
20 時間未満
20-35 時間未満
45-60 時間未満
60 時間以上
勤務時間選択自由度あり
働く場所選択自由度あり
-0.232** (0.115) -0.015 (0.102) -0.137* (0.081) 0.029 (0.124) 0.113 (0.082) 0.170* (0.091) -0.124 (0.103) 0.069 (0.102) 0.113 (0.121) 0.196 (0.241) 0.155* (0.081) -0.051 (0.101) 本業の年収(ベース:200 万-400 万円未満)
200 万円未満
400 万-600 万円未満
600 万-800 万円未満
800 万-1000 万円未満
1000 万円以上
定数項
サンプルサイズ 自由度修正済決定係数
2.567*** (0.287) 2,216 0.148 -0.491*** (0.082) 0.090 (0.091) 0.259** (0.127) 0.330** (0.130) 0.861*** (0.185) 2.608*** (0.281) 2,216 0.171 2.232*** (0.217) 1,848 0.110 -0.211** (0.086) 0.339** (0.160) 0.377 (0.319) 0.461 (0.827) 2.025*** (0.631) 2.341*** (0.209) 1,848 0.124
注:( )内の値は分散不均一性に頑健な標準誤差。 ***p<0.01,**p<0.05,*p<0.1
業を認める企業側のメリットを整理した。 事例を丁寧に読み取ることで,複数の企業に共 通した企業メリットは,大きく 5 つに分類できた。 「人材育成」「人材求心力」「柔軟な組織体制」「生
産性向上」「ビジネスの情報と人脈」である。以下, 一つずつ,事例とともに詳細をみていきたい。 まず,1 つめの「人材育成」の機会は,複業に よって,自社だけでは提供できない仕事の機会を, 組織を越境して与えることで,従業員を育成でき るというメリットである。獲得できる能力として は,専門スキルを深める機会を増やすことで「得 意分野が伸ばせる」こと,パーツではなく事業全 体に関わる経験をすることで「当事者意識や経営 者視点」が育ち,専門スキル周辺の「異なるスキ ル」を獲得できること,自社文化とは異なる多様 なメンバーとの協働を経験することで,「リー ダーシップ」が鍛えられることがあげられている。 例えば,エンファクトリーは,2011 年の設立 以来から「専業禁止」という人材ポリシーを掲 げ,実際に常に約半数もの社員が複業していると いう先駆的な企業である。複業を推奨するのは, 不確実な時代を生き抜くために人材の自立を応援 するという企業理念に沿うものであり,複業の効 果として「一時はモチベーションが上がっても, 効果の持続性が薄い一般的な研修とは異なり, 『社外でビジネスをする』ことは当事者意識,経
営者意識を醸成する」「本業だけでは得られない 情報や人脈を取り込み,立ち上げから収益を上げ るまでビジネスを通観することで,経営というも のを捉えられるようになる。皆,しっかりしてき
ますよ」(リクルートワークス研究所 2015)と語る。
2 つめの「人材求心力」は,複業を認めること で,ほかにやりたいことが出てきたときに,離職 せずにチャレンジできることで「離職率が低下」 し,やりがいが増えることや,多様な働き方を認 める風土によって「モチベーションが向上」する こと,また,1 社だけに束縛されることを嫌う起 業家マインドや特定のスキルを持ったプロフェッ ショナルなどの「採用力が強化」するというメ リットである。
サイボウズは,「100 人いたら 100 通りの人事 施策」と,多様な働き方や価値観を認め,複業だ
けでなく,ライフスタイルに合わせて働き方を選 べる人事制度や,働く時間や場所の制約を外す取 り組みを行っている。これらの取り組みの狙いや 効果として「そもそも『100%フルコミットでき ます』という人だけを集めようとすると限界がく る」「自立した多様なメンバーが集まり,チーム で成果をあげることができる」(リクルートワーク
ス研究所 2015)と説明し,離職率を大幅に下げる
ことにも成功している。また,トレンダーズは「全 員が出世や役員を目指さなくても,会社とは別の 環境で収入ややりがいを持てれば強い組織にな
る」(経済産業省 2014)と,従業員のモチベーショ
ン向上をメリットとしてあげている。
3 つめの「柔軟な組織体制」は,複業を認める ことで,自立した人材や他社でも活躍できるプロ フェッショナル人材によって組織を構成すること で,変化の激しい時代においても,従業員に依存 されることなく,柔軟に組織の形を変えることが できるという効果である。
例えば,オールプレジデントは「今の時代は依 存関係がリスク」「自立している人,ビジョンを 持っている人を採用することで,自分の力で稼ぐ 人の集合体となれる」(経済産業省 2014)ことを 複業のメリットとしてあげる。このほかにも,複 業を認める他社に雇用されているプロフェッショ ナル人材を,業務委託として活用することで,組 織の柔軟性を保っているという企業事例も複数み られた。
4 つめの「生産性向上」は,複業を認めること で,個人の時間管理の重要性が高まり,結果的に, 本業での仕事が効率的になるというメリットであ る。先述の,エンファクトリーでは,「仕事が効 率的になり 10%から 20%残業が減った」(経済産
業省 2014)という。複業によって,これまでの職
場の残業体質を改善できる可能性がある。 そして,最後の「ビジネスの情報と人脈」は, 自社の事業だけでなく,外の環境に身を置くこと で,本業のビジネスチャンスにつながる「最新の 情報」や「新しいアイデア」「広い人脈」を得ら れるという効果である。
ディーにキャッチできる」とし,サンシャイン ジュースは「互いの事業でインスピレーションを 受ける。一方の事業で築いたつながりが,もう一 方の事業に活かせることもある」という(ともに
経済産業省 2014)。
複業については,複業を許容すると本業に専念 できなくなるなど,悪影響が懸念されていたが, 以上で紹介した企業の事例を見ると,多くの企業 メリットがあるといえる。また悪影響として指摘 されることとして,複業を許容すれば,それをきっ かけに,よい転職先を見つけたり,独立する機会 を得ることで,従業員の離職につながるという懸 念があるが,これに対しても,企業の事例を見る と,リスクとは捉えていないことがわかる。つま り,仮に従業員が離職したとしても,例えば業務 委託契約を締結することにより,離職後の関係性 を保持することで,彼ら彼女らの価値を自社のビ ジネス上で活用し続けられるため,大きな問題で はないということだ。企業の声を見ても,エンファ クトリーの加藤社長は「そもそも,社員が辞める こと=人的資産を失うこと,という発想自体が時 代に合っていません」(リクルートワークス研究所
2015)と語る。メンバーシップ型と呼ばれるよう
に,日本企業は個人を「自社の人材」か否かで見 ているが,複業を認めることで人材の活用がさら に多様化すれば,企業のメンバーシップの境界は 意味のないものになっていくと考える。
V ま と め
本稿では,複数の仕事に従事する働き方を,従 来の副業も含んだ広い概念として「複業」と定義 し,その実態と変化を把握することを試みた。以 下,本稿で明らかになったことを整理しておく。 まず,『就業構造基本調査』(総務省統計局)を 活用し,複業の時系列変化を見たところ,就業者 のうち複業を持つ者は,1977 年に 371 万人,就 業者に占める割合で 6.9%に達した後は,2012 年 までともに減少傾向であること,特に,1997 年 から 2012 年の 15 年間での減少の幅が大きいこと がわかった。また,この 15 年間の減少の背景と して,本業もしくは複業において,農林水産業に
従事する者の数が大きく減少しているだけでな く,農林水産業従事者以外に従事する者の数もや や減少傾向にあることが示された。一方で,就業 形態については「本業・複業ともに雇用者」の数 が量的にも増加傾向にあるという,興味深い結果 が明らかになった。
次に,「全国就業実態パネル調査」(2016)を活 用し,近年の複業実態について検証した結果,労 働時間と収入の側面からみて,従来型の本業に対 する補助的な位置づけとして複業を行う者が多い ことが確認された一方で,複業の労働時間や収入 が本業を超える,もしくは,本業と同程度であり, どちらが主でどちらが副とは言い切れない状態で ある複業が一定数存在することが確認できた。ま た,誰が複業を行っているのかを探索的に分析し た結果,本業の労働時間が短いほど,勤務時間や 働く場所に選択自由度があるほど,そして,本業 の年収が低いほど複業をしていることが確認でき た一方で,分析の対象を雇用者に限定すると,年 収が 1000 万円以上という高い労働者についても, 複業をしている人がある程度いる様子がうかがえ た。さらに,複業をしている人に限定して,複業 の年収の決定要因を検証した結果,本業の年収が 少ない人は複業の年収も少なく,逆に本業の年収 が高い人は複業の年収が高いといったように,本 業と複業の年収に正の相関がみられた。本業で所 得が高い人ほどその専門性を生かした複業で,高 い収入を得ている可能性が考えられる。
最後に,複業を容認,もしくは推奨する企業事 例に注目し,なぜ,彼らが複業を認めるのか,企 業側のメリットについても検証した。その結果, 「人材育成」「人材求心力」「柔軟な組織体制」「生
産性向上」「ビジネスの情報と人脈」の大きく 5 つのメリットがあることに整理された。
その一方で,本業・複業ともに雇用者の量的な 拡大や本業と複業の年収との正の相関など,本稿 で定量的に示された点についても,その詳細なメ カニズムについては依然として明らかではない。 複業をより深く理解する上では,その背景にある メカニズムの検証も求められる。
2)先述の先行研究のように雇用者に限定した複業実態ではな く,ここでは就業者全体の複業に注目している。
3)調査では,「あなたは副業をしていましたか」と「副業」 という表記をしているが,本稿の定義に合わせて,ここでは 「複業」と表記している。
4)たとえ本業と比べて労働時間が短く,収入が低い複業で あっても,所得補塡型ではなく,自己実現や成長機会の獲得 といったほかの目的である複業である可能性はある。ここで は,複業理由についてはわからないため,労働時間と収入の 側面から,所得補塡型であるのか否かを検証した。 5)勤務時間の選択自由度については「勤務時間を自由に選ぶ
ことができた」,働く場所の選択自由度については「働く場 所を自由に選ぶことができた」といった質問に対し,「あて はまる」「どちらかというとあてはまる」を回答した者を 1, それ以外を 0 としてダミー変数を作成した。
6)労働政策研究・研修機構(2005)は,2004 年に企業に対 してアンケート調査を行い,就業規則などにおける複業の取 り扱い方を 1995 年時の回答結果と比較した結果,正社員に 対する複業を「禁止している」企業は 2004 年で 50.4%と, 1995 年から 11.8 ポイント増加していることを示している。
参考文献
大木栄一(1997)「マルチプルジョブホルダーの労働市場─ 雇用労働者の副業実態」『日本労働研究雑誌』No.441,pp.34-39.
小倉一哉・藤本隆史(2006)「サラリーマンの副業─その全 体像」『日本労働研究雑誌』No.552,pp.4-14.
総務省統計局『就業構造基本調査』各年版.
高石洋(2004)「副業するサラリーマン─新しい能力開発機 会」佐藤博樹編著『変わる働き方とキャリア・デザイン』勁 草書房.
経済産業省(2014)『平成 26 年度兼業・副業に係る取組み実態 調査事業報告書』.
根本到(2006)「副業をめぐる法的規制と労働者の私生活の自 由 ─ドイツとの比較から考える」『日本労働研究雑誌』 No.552,pp.15-25.
リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査 2016」. ─(2015)『Works』133 号.
労働政策研究・研修機構(2005)『雇用者の副業に関する調査 研究』労働政策研究報告書.No.41.
─(2009)『副業者の就労に関する調査』調査シリーズ No.55.
はぎはら・まきこ リクルートワークス研究所主任研究 員・主任アナリスト。最近の主な論文に「大学進学者の就 職時期を延ばす選択がその後の就業や年収に及ぼす影響」 (太田聰一氏との共著)『WorksReview』vol.11,2016 年。
労働経済学・公共経済学専攻。